地震予知の難しさと基礎研究の重要性②100年後に実を結んだ基礎研究

大森房吉
大森房吉

大森公式というのをご存知ですか?

たしか、中学理科で習ったような記憶がありますが、ごく簡単に説明すると、

 

地震波のうちP波が速く,S波は遅く進むという性質があります。

よって、震源から遠くなるほど2つの波の時間差(PS時間)が大きくなります。

 

つまり、震源からの距離とPS時間は比例関係にあります。

PS時間をだいたい8倍すると震源までの距離となります。

 

例えば、細かな縦揺れ(P波)が来てから、10秒後に大きな横揺れ(S波)を感じた場合、震源までの距離は10秒×8=80kmと見積もることができます。

 

この公式を発見したの日本の地震学の父といわれる大森房吉です。

 

大森房吉は世界初の実用的な地震計を開発するなど、世界トップレベルの研究者でした。

大森公式が発表されたのは、今から100年以上前の1899年です。

 

地震が起きると、気象庁がただちに震源を発表しますが、その原理は基本的に大森公式によっています。

大森公式の学問上の意義は誰もが認めるところですが、この原理を応用して多くの生命を救えるようになるとは誰も、もちろん当の本人も思わなかったでしょう。

 

しかし、近年になってスマートフォンなどのデジタル機器が一般化したことにより、大森公式は、画期的なシステムの理論的基礎となってよみがえります。

 

それが、「緊急地震速報」です。

地震計で観測した情報を直ちに多くの人に発信し、S波が来る前に地震に備えることができるようになりました(震源が近い直下型地震の場合は間に合いませんが)。

 

これにより、大きな揺れが来る前に新幹線やエレベーターを停止でき、結果的に犠牲を抑えることができます。

 

大きな地震が起きるたびに、地震学者や基礎研究の不要論が出回ります。しかし、この大森公式を例に取ると、基礎研究が実用化されるには長い年月と科学者・技術者の不断の努力が欠かせないことがわかります。

 

今、地震学者が取り組んでいる基礎研究は私達が生きているときには、日の目をみないかもしれません。

しかし、子供・孫の世代になって、大森公式の例のように多くの命を救うことになるかもしれないのです。

 

安易で、拙速な結果ばかり求めずに、地道で愚直な活動を応援したいと思います。

 

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