なぜ新聞販売所が号外を出し、ドローンを飛ばすのか② “空の革命児”との出会い

あまり(というか全く)知られていないと思いますが、北海道新聞販売所の若手経営者からなる道新青年会というグループがあります。この会では、販促や労務対策といった業界向けの活動や、防災対策、地域貢献といった活動も行っています。

 

この会で、私は3年ほど前から「ドローンを使った新聞輸送の研究を行ってはどうか」と提案してきました。目的は大きく2つ。

1つ目は、災害対策です。北海道では、これまでも(そして、間違いなくこれからも)集中豪雨や台風、地震などにより、インフラが寸断されるという被害で度々発生してきました。先月の胆振東部地震のときもそうでしたが、非常時ほど正確な情報が求められます。

 

テレビやネットは電気が止まれば使えません。電気や再生装置がなくても、誰でも読める新聞は、非常時こそ必要とされます。

 

ドローンであれば、道路状況に関係なく、飛行することができます。さらに、新聞だけでなく、薬や乾電池などの非常用物資といっしょに輸送することもできるでしょう。

 

2つ目は、将来的な新聞配達の自動化の検証です。特に地方部において、高齢化・過疎化により新聞配達網の維持が年々困難になっています。新聞だけではなく、鉄道などの交通機関、スーパーやドラッグストアなどの生活基盤も年々失われています。これまでの常識から抜け出して、新たな発想を求めなければ、早晩行き詰まってしまうことは明白です。

 

その対策として、ドローンや自動運転などのIoT技術の導入を検討すべきであり、そのために現時点での技術上・法律上・コスト上の課題をはっきりしておきたいと考えていました。

しかしながら、新聞配達にドローンを使うというのは前例のないことでもあり、この提案はなかなか認められませんでした。「ドローンを飛ばして、新聞を取る人が増えるのか?」「費用をかけた分の効果は期待できるのか?」・・・などなど反対派の人々の主張はきわめて常識的なものでした。

 

これに対して私は、「私たちの仕事は、“新聞を届ける”ということにつきます。新聞が最も必要とされるのは、大きな災害時です。何かあったときのために、今から備えておくということは何よりの読者サービスです!」と主張しました。この意見は胆振東部地震が起きるずっと前に言っていたことですが、今回の災害でその主張が間違っていなかったことが実証されたと思います。結果的にこの主張は道新青年会の皆さんが受け入れてくれました。

さて、ドローンを使った新聞輸送実験は承認されたものの、どうやって飛ばすのかという根本的な問題がありました。

 

ここで、我々を手助けしてくれたのが北海道新聞編集局写真部の通称「ドローン班」です。あまり知らていませんが、新聞社の中でドローンを取材に活用したのは北海道新聞が日本で最も早かったはずです。

 

ドローン班のメンバーはまだドローンという言葉が知られる以前から、その可能性に着目し、自費でドローンを購入し(!)、ドローンを使った空撮を行っていました。

 

長年培ったノウハウから、現在新聞紙面上で「ドローン写」というドローンでしか撮影できない風景を読者にお届けしています。

新聞輸送のイメージトレーニングを行う請川博一さん
新聞輸送のイメージトレーニングを行う請川博一さん

今回の実験の意義を説明し、道新ドローン班に紹介していただいたのが“空の革命児”とも呼ばれるドローンパイロットの請川博一さんです。

 

プロフェッショナル~仕事の流儀~」などにも出演し、ドローンの操縦では右に出る者がいません。時速40キロで走る自動車とドローンを並走させ、タイヤのアップを至近距離から低空飛行で捉え、一気に急上昇して広大な雪原につなげるという「究極のワンカット」で知られています。

 

請川さんは30年のキャリアを持ちながらも、時間を惜しまずトレーニングを重ね、空撮のたくみともいえる境地に達した方。

 

日本中を飛び回り、超多忙な請川さんがこの依頼を受けてくれるのか。全く自信がなかったものの、私は旭川を本拠に活動する請川さんに4年前に起きたある災害のことをお話しました。

2014年の大雨により天人峡への道路が崩落した事件です。このときは孤立化した宿泊者を防災ヘリで搬送しました。身近な災害を例に、世界で誰もやったことのない災害を想定した物資の輸送実験を行いたいこと、将来的には物流の自動化を支え、地方への生活・情報格差を解消したいことを訴えました。


私からの提案は、災害時の輸送を想定し、川の上空を横断して、対岸で新聞を下ろすということでした。請川さんはすべてを理解していただき、災害時の輸送を想定するならば、ピストン輸送で大量の物資を届けられることを検証したいと逆に提案していただきました。

 

この当時の私は知りませんでしたが、空撮ならともかく、ドローンを使った輸送テスト、ましてや川を横断する形でというのは前例がなく、開発局や旭川市などの関連部署を許認可を得られるよう請川さんが駆け回っていただいたことを後に知りました。

そうして迎えた9月21日。旭川市石狩川支流の上空で、世界ではじめて災害を想定したドローンの輸送実験に成功しました。このニュースは北海道新聞はもとより、どさんこワイドでも大きく報道され、共同通信によって中日新聞など日本中の新聞にも掲載され、大きな反響を呼びました。


この実験の2週間前に発生した胆振東部地震。幸い、停電は1~2日程度でほとんどの地域は回復しましたが、当初1週間程度かかると見られていました。北海道の電力が厚真に半分程度も依存しているという状況はただちに解消されるものではありません。今後、北海道の太平洋沖で東日本大震災クラスの巨大地震が起これば、太平洋に面した厚真火力発電所の復旧は長期に及ぶでしょう。

 

また、SNSなどでは断水や余震に関するデマが拡散されました。非常時こそ、正確な情報が求められます。それをお届けするのは私たち新聞販売所です。今回の実験が成功したからと行ってただちにドローンを使った新聞配達が普及するわけではありません。まずは、離島や僻地など通常の手段では配達が困難な地域をモデルケースとして、運用のノウハウを蓄積し、非常時にはドローンを使った輸送を行える体制が構築できるよう、少しづつ取り組みたいと思います。

 

※なぜ“新聞販売所”が号外を出し、ドローンを飛ばすのか?① 6年がかりで作り上げた号外

※道新りんご新聞活動記 大停電からの3日間を振り返る